医療用医薬品の研究・開発・製造・販売を手がける中外製薬株式会社は、がん領域を中心に革新的な医薬品をグローバルに展開するリーディングカンパニーです。その製造を担うのが中外製薬工業株式会社です。
以前より、製造現場における化学物質のリスクを正しく把握し、安全に管理するための体制を構築し、運用していましたが、2023年の労働安全衛生法(以下、安衛法)改正を契機として、ハザードベースの規制からリスクベースの規制への対応が必要となりました。こうした背景を受けて、リスクアセスメント業務にかかる工数の削減と化学物質情報の一元管理による現場の安全意識向上を目的としてケミカンSDS管理(以下、ケミカン)を導入。今回は、導入を推進された滝本様に、ケミカンの導入経緯や導入後の効果についてお話を伺いました。
当時、私の所属している藤枝工場では多くの化学物質を扱っていましたが、必ずしも理系出身者や専門知識を持つ作業者ばかりではない実情がありました。一方で、作業者の安全を確保するためには、化学物質の有害性や適切な取り扱いなどを誰もが正しく理解し、適切に対応できる仕組みを整えることが必要だと感じていました。
そうした中、2023年度の労働安全衛生法改正によりリスクアセスメントが義務化されるようになりました。我々もこのタイミングで、新基準でのリスクアセスメントを実施したのですが、そもそもリスクアセスメントの対象となるSDS(Safety Data Sheet:安全データシート)を抽出する段階で一定の知識が必要であり、多くの工数がかかる作業であるという難しさを感じました。
これからどうしようかと考えていたところ、SDS管理などをサポートするソフトやサービスがないか調査していた同僚からケミカンさんを紹介されました。実際にお話を伺う中で、リスクアセスメントの対象となるSDSの抽出をケミカンで正しくかつ効率的に行えることで、私たちはリスクアセスメント実務に集中できると確信できたことから導入を前向きに検討し始めました。
社内においては法改正により新たに発生した課題、ケミカンを導入することで改善できるポイントを説明しました。当初は私が所属している藤枝工場のみの利用を検討していましたが、ハザードベースの規制からリスクベースの規制への変化に伴い対応コストが増加しており、その打ち手として、ケミカン導入の効果は関係者の理解も得やすく、導入の承諾を容易に得ることができました。また、検討の過程で「他部門でも同様の課題を抱えているのではないか」「全社で活用できれば、より大きな効果が得られるのではないか」という声も挙がり、上司や関連部署の協力のもと、同僚と2名体制で他事業所も含めての検討を進めていくことになりました。
社内には試薬管理システム含め他サービスも導入していて「なぜケミカンなのか」「既存システムとどう違うのか」といった疑問に対し、一つひとつ比較して理解を求めていきました。やはり全社導入となると、関係者の人数も多くなりますし、それぞれの立場からの視点や判断基準も異なります。そのため、ケミカンの利点や導入の意義を、誰に対しても納得いただける形で伝えることに特に力を入れました。
ケミカンには「ユーザーライセンス数が無制限」「マスターデータの管理が不要」「専門的な知識がなくても使える操作性の高さ」など、非常に多くのメリットがありますが、口頭だけで説明してもイメージしづらい部分があるのも事実です。資料を用意し、実際の導入効果のイメージを共有する機会を設けるなど、丁寧な説明と情報提供を心がけました。そうした一つひとつの対話の積み重ねによって社内の理解が深まり、数か月かかりましたが最終的に前向きな合意形成につながったと感じています。
一つは、私自身の想いとして、多くの化学物質を扱う仕事の中で化学物質のことを十分に理解する機会がないまま働いてくれている方がいることに葛藤がありました。私はもともと安全衛生の担当者として「守る立場」の責任を感じており、また、社内の化学物質取扱委員会にも所属していたことから、こうした課題に向き合う立場にありました。だからこそ、「このタイミングで私が推進しなければ」と強く思い、「皆さんの安全をより高めるために必要な活動を私が進めていくのだ」という信念で動いていました。
導入を推進していくにあたり困難な場面にも直面しましたが、ケミカンの価値を感じた同僚・上司の支援、多くの関係者の前向きな協力があったからこそ、達成できたと感謝しています。
わかりやすい顕著な成果は、当初の目的であったリスクアセスメント対象物質を含むSDSの抽出作業にかかる時間が飛躍的に短縮されたことです。
たとえば、500種類もの化学物質を取り扱う部署では、以前はエクセルを使った手作業で1つずつ突き合わせ、作業に20時間近くを費やしていました。ケミカン導入以前はまさに人力でこの作業を行っており、厚生労働省ホームページや「NITE-CHRIP」など様々なウェブサイト情報を参照していましたが、古い情報に基づいて誤った判断をしてしまったり、規制物質一覧とSDS記載の化学物質情報の突合に膨大な時間を費やしていました。
しかし導入後は、各種法令で規制対象となる化学物質を含むSDSの迅速なリストアップや、更新が必要なSDSを教えてくれる「チェックリスト機能」を使うことで、従来20時間かかっていた業務がわずか1分足らずで完了できるようになりました。法改正情報はケミカンが逐次更新してくれるため、CAS番号、物質名、適用法令など複数の条件で柔軟に抽出可能な仕組みが実装されており、さまざまな業務シーンで活用できる幅の広さを実感しています。
また、ケミカンの導入により、これまで把握が困難だった事業所ごとのリスクアセスメント進捗状況が可視化され、会社全体での法規制対応状況のマネジメント効率が格段に向上しました。どの部門がどの程度進捗しているか、遅れている部分はどこかが明確になったことで、優先順位に基づいた戦略的な対応が可能になった点も大きな改善です。以前は断片的にしか見えていなかった「全体像」を俯瞰できるようになったことが、今後の法令遵守体制の強化と効率的な運用に大きく活きると感じています。
2024年を導入期間、2025年を本格運用の初年度と位置づけて活動しており、これから最大限の活用を行っていきます。すでに現場からは「社員の安全を守るために不可欠なツール」として社内でも高い評価を獲得しつつあります。「ケミカンを導入して本当によかった」と実感しています。特に、専門的な知識がなくても扱いやすく、無制限のユーザーライセンス、マスターデータ管理が不要な点は、現場への展開をスムーズにし、導入効果を実感する上で大きなポイントとなりました。
今後の活用においては、法令改正情報のタイムリーな共有や、化学物質の抽出精度のさらなる向上を期待しています。また、SDSの新旧差分を自動検出・可視化できる機能が実装されれば、変更点が一目ですぐに把握できるようになり、管理業務の負担が大幅に軽減されると考えています。
すでに非常に使いやすいツールではありますが、今後も「現場のユーザーの視点」に立ったアップデートが続いていくことを、心から期待しています。
ケミカンの導入を検討されている方には、まず「自社の化学物質管理においてどのような課題を解決したいのか」という活用のイメージを具体的に描くことを強くお薦めします。導入にあたって最も意識したのは「この仕組みを通じて何を実現したいのか」という青写真を明確にすることでした。
業務効率化はもちろん、安全管理体制の強化という観点でも、ケミカンは非常に頼れるパートナーです。導入を検討されている皆さまには、単に“できること”ではなく「どう活かしたいか」に目を向けて考えていただければと思います。
滝本様(藤枝工場 総務グループ)